ハンセン病市民学会分科会Aに参加して
さる5月12日,札幌市で開催された第18回ハンセン病市民学会総会で分科会A「ハンセン病問題に向けた行政の取組」に参加した。
第1部では,4つの基調報告がなされた。
第1に,地元北海道庁保健福祉部感染症対策課の錦野昌浩課長補佐から北海道における行政の取組の報告があった。ハンセン病療養所のない北海道では,里帰り事業で来道した元入所者の方の訴えがきっかけとなり,「無らい県運動」などのハンセン病問題の検証がなされた。2011年6月「北海道ハンセン病問題検証報告書」がまとめられ,北海道が自治体として「無らい県運動」に加担していた歴史が明らかとなった。
第2に,北海道社会福祉士会の澤田憲一副会長から,社会福祉士会のハンセン病問題への取組の報告があった。今後の課題として,ハンセン病療養所のない北海道でどのようにハンセン病問題を周知・啓発するか,ハンセン病回復者からの相談に乗る社会福祉士がハンセン病問題に対する正しい知識をどのように学習するかなどの悩みが語られた。
第3に,人権教育啓発推進センターの坂元茂樹理事長から,地方公共団体における検証活動の意義とのタイトルで報告があった。第1次,第2次の「無らい県運動」が,国民がハンセン病への偏見差別を持つ大きな原因となったこと,だからこそ,今度は地方公共団体が率先して,ハンセン病問題への偏見差別を除去するための運動を展開せねばならないことが報告された。
第4に,長野県ハンセン病問題検証会議委員の横田雄一弁護士から,長野県におけるハンセン病問題の検証,その後の取組の報告があった。長野県は第2次「無らい県運動」のトップを走っており,そのことがハンセン病に対する偏見・差別を助長し,入所者が家族や故郷との縁を絶たれるといった悲惨な運命をたどることにつながったと検証結果報告書は結んでいる。明治時代に大町警察署がハンセン病患者の家系を記載した資料がネット市場に流出した問題をきっかけに,2021年に長野県知事が謝罪し,長野県として元入所者の講演会を多数実施するなどハンセン病問題の啓発活動を強めたとのことであった。
第2部では,以上の報告を踏まえ,シンポジウムが行われた。シンポジウムでは,ハンセン病問題が持つ普遍性に触れる発言が多くあった。私自身も,新型コロナの1回目の緊急事態宣言が出て,伊原木岡山県知事が県境を越えて移動してきた人が検温で後悔することになる」との発言をした際に,岡山県ハンセン病問題対策協議会で「県知事はハンセン病問題の過去から何を学んでいるのか?」と大問題となったことを思い出した。今やハンセン病は新規の患者は発生しない病気となったが,別の感染症でもハンセン病で起こったと同様の人権侵害が起こり得るのである。その意味では,ハンセン病問題は今日的課題である。そのことを改めて痛感した分科会であった。(運営委員 則武 透)